ハンガリー・ラダイ博物館での展覧会、一般公開初日のことです。 前々回のブログで〝私もお客様の前で書をかいた〟と書きましたが、 大きな紙に書くという当初の計画から、当日のノリで(笑)、 まず師が半紙に書き、次に私がそれを真似て書くという稽古形式で お客様に見ていただきました。
しかし書きながら 「見ているだけじゃつまらないだろうな、書いてみたいだろうな~♪」 という思いが私の中でフツフツと湧いて出てきたので、 「書いてみますか?」と思いっきり日本語でしたが(笑)、 一般のお客様に筆を手渡してみました。 ちなみにハンガリーではマジャル語(ハンガリー語)が公用語です。
こういう時、日本人の場合だと書き順を間違えたら大変だとか 入筆がどうのとか、ハネや払いがどうのとか…中途半端な知識がある分、 ぎこちなくなったり、躊躇したりしてしまうものですが、 ハンガリーの方々は、そういった教育を受けていないのもあって、 書き順にもこだわらず、純粋に形を似せて楽しそうに書いていました。
その様子を見て 「書ってやっぱり造形芸術なんだなぁ~」なんて しみじみ感じ入りました。
たくさんの方が挑戦してくださったのですが、ある女性は、 手本とは違う何かをおもむろに書き始めまして、 「なんだろう?なんだろう?何を書いているんだろう??」 と、遠くから身を乗り出し見ていると、 やたらとその女性と視線が合うわけです。
「ん?」
改めて彼女が書いているものを見てみると、 「あれ?今書いているの、髪の毛??横分けの女の人? もしかして、ワタシ???」
これを私に向けて見せてくださいました。
モーレツに感激。本当に感激。 すぐに歩み寄り、「うれしいっ!ありがとうございます!」と、 これまた日本語でお礼を言うと(嬉しさのあまりThank youも出ない笑)、 私の目から一瞬も視線を外すことなく、ジーーーッと私の目を見つめ その女性、優しい口調で私に話し始めました。
が。ハンガリーの言葉なので、まったく何を言っているのかわかりません。
しかし、私に言葉が通じていないこともわかって、 そんなの構うことなく話しているのが伝わりました。
私もその女性の思いを逃さないようにと、一瞬も視線を逸らすことなく 話に耳を傾けました。
すると、どうしてかはわからないのですが、 「日本が大好きだ」 「日本を尊敬している」 「日本の文化を愛している」 「書は素晴らしい」 「こんな機会を与えてくれてありがとう」 と言っているんだな、というのが伝わってきたんです。
途中から通訳の方にお願いして訳していただいたのですが 彼女の声に集中していたもので、一言、 「日本の女性は美しい」 という、自分にとって都合の良い日本語だけしか聞こえず(笑)、 結局、私の耳は彼女の言葉を拾っていました。
日本の文化をそんな風に大切に思ってくださっている方が ここハンガリーにはいるんだ…
という現実に、 どうにもこうにも有り難い気持ちで胸がいっぱいになり 涙が頬を伝う…等のレベルを超え、滝のような涙が流れてきました。
同時に彼女の思いも涙に変わり、二人でしばらく泣いていました。
すると、隣で見ていた師が 「これが本当の文化交流だよ、よかったね」 と声を掛けてくださいました。
師も彼女のマジャル語を私と同じように解釈していたのがわかりました。
今、思い返しても不思議な体験です。 言語はひとつも理解できていなかったのに、 思いだけはスーッっと伝わってきたなんて。
「思いは言葉を超える」 身をもって理解できた出来事でした。
本当に本当に、良い経験でした。 ありがとうございました。Köszönöm
高天麗舟